もともとマンション関連には複数の法令が存在し、すでに例に挙げた建替えの問題だけに限らず、
マンションの管理や運営の方法を細部にわたり規律しています。
ここでは、これら関連法規を簡単に紹介していきますが、マンション法規は複雑・難解なため、理解にあたっては、
個々の法規文言の正確な読解よりもむしろ全体の中のどの地点のテーマかを意識することが大切です。
要は「この法律はこの場面で機能するのか…」ということさえイメージできれば、マンション問題への理解はより深まるでしょう。
1.建物の区分所有等に関する法律(通称、区分所有法)
一般に「マンション法」とも呼ばれるマンションの根本法であり、マンション関連法令の理解の出発点となります。
権利者間の法律関係や建物等の管理の仕組みについての拠り所となりますが、あくまで区分所有を規律し、必ずしも住居専用のマンションのみを想定していない点には注意が必要です。
2.被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(通称、被災区分所有法)
政令指定災害によりマンションの全部または大規模な滅失が生じた場合に適用される法律です。
災害時を想定した理解はもちろん大切ですが、法構造の理解を優先的したい場合は後回しにして、平時の仕組みを外観してから取り掛かる方が特徴を捉えやすいでしょう。
3.マンションの建替え等の円滑化に関する法律(通称、建替え等円滑化法)
時を経たマンションがいずれ直面する建替え場面を規律する法律で、区分所有法上の厳格な建替え手続きをクリアした段階から機能します。
この法律によらずに建替え事業を行うこともできる(任意)点と、重要なのは手続き全体の流れの把握であるという点は抑えておく必要があります。
4.マンションの管理の適正化の推進に関する法律(通称、管理適正化法)
マンションの良好な居住環境を確保するためには、マンションに関わる人達の規律もまた不可欠です。
この様々なプレイヤーを規律する役割を有するのが管理適正化法、というイメージで捉えると良いでしょう。
具体的には、マンション管理業者、管理業務主任者、マンション管理士、といった免許者・資格者を中心としたマンション運営に外部から関わる者を中心に規律することでマンション運営の適性を担保することになります。
5.マンションの管理の適正化に関する指針(通称、適正化指針)
マンション運営は管理組合を主体とする適正な管理が行われることが重要である、との認識の下に、管理の適正化を推進するための必要事項を「告示」として国土交通省により定められたものです。
マンション運営において、誰が主体であるべきか、そのためには何が行われ、どこに留意すべきか、という視点が指針全体にわたり貫かれています。
6.マンション標準管理規約(通称、標準管理規約)
個々のマンションの根本規範といえば、言うまでもなく管理規約です。
この規約が分譲会社や管理業者により個々に作成された「案」をベースにしていては、内容がまちまちになり必ずしも区分所有者の要求を満たせないことから、具体的な管理規約を制定する際のモデル(ひな形)となる存在として国土交通省により作成されたものです。
このモデルを引用・使用しつつ個々のマンションの実情に応じた加筆修正を行うことにより、そのマンションにより相応しい規約を作成することが可能となります。
また、標準管理規約に付随する個々の「関係コメント」という注釈は実際の適用場面で、その対象や意味内容が的確に捉えられるように補助する機能を有しています。
7.マンション標準管理委託契約書(通称、標準管理委託契約書)
管理組合とマンション管理業者が業務の委託契約を締結する場合、管理適正化法により一定事項を作成した書面の作成および交付が求められます。
この書面を作成する際の指針となるべきモデル(ひな形)として作られたものが標準管理委託契約書です。
標準管理規約が内部規律のモデルなら、標準管理委託契約書は対外規律のモデルとなるもの、というイメージで捉えられるでしょう。
この標準管理委託契約書にも、的確な運用を可能とするための注釈として「関係コメント」が付されています。
8.長期修繕計画ガイドライン
マンション管理において、維持・保全というテーマは極めて重要です。
とりわけ大規模修繕は、長期修繕計画を踏まえて計画的に実施される修繕のうち、建物の全体または複数の部位を対象として行われるもので、この確実な実施によりマンションの快適な居住環境は確保され、資産価値の維持につながることになります。
このような長期にわたる修繕計画において、基本的な考え方や標準様式を使用しての作成方法を示し、計画修繕工事の適切かつ円滑な実施を図ることを目的として国土交通省により公表されたのが、この長期修繕計画ガイドラインです。
9.その他
これ以外にも、マンション関連の法規として、維持・運営を支える法令は多数存在します。
例えば、私法の一般法である民法はマンションをめぐる権利関係の根底に位置し、マンションの敷地や附属施設の適用関係をカバーする役割を担います。
また、建築基準法はマンションの建築物としての側面全般を規律する重要な関連法となります。
このようにマンションをめぐる法律関係は挙げればキリがないほど多数の法令の存在によって規定され、またバランスが保たれている、といえるのです。