マンションをめぐる紛争

裁判例から学ぶ

マンションは人が集まって暮らす居住形態のため、ときには争いが起こることも避けられないでしょう。
それでも、人には誰しもトラブルの解決を望む気持ちがあるのですから、問題解決の手掛かりとして過去に起きた紛争事例の経験に学ぶことは非常に有意義といえます。
ここでは、過去のマンション関連紛争において最高裁判所まで争われた事件を中心に、年代に沿って10事例ほどピックアップしたものをご紹介し分析を加えることで、マンション紛争をより身近に感じていただくことを目的としています。

二刀流解説の意義

二刀流解説の意義
判決文や法律用語など、特に法律の文章の言い回しは、ときに難解でイメージしづらいことも多々あります。
そこで、このページでは場面に応じて“ガチンコ解説”“ファンキー解説”などと称し、ときに小難しい言い回しを用いたり、砕けた表現で述べたりすることで、事例や判決および争点等を可能な限りイメージしやすいように解説することを心掛けています。

  • CASE1
  • 最判平成10年10月22日

事実の概要
AマンションのY分譲業者は、マンション分譲に際し、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車区画(以下、「駐車場」)を設け、建物専有部分の区分所有権および敷地の共有持分とは別に、マンション購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権を分譲し、その対価を受領した。
そこで、X管理組合とY分譲業者との間で、この対価がいずれに帰属するかを巡り争われた事案である。
争点
  • 分譲業者による専用使用権分譲にかかる対価の受領は、不当利得(民法703条)となるか(主位的請求)。
  • 分譲業者が受領した専用使用権分譲にかかる対価を委任事務処理上の金員請求権(民法646条1項)に基づき引渡しを請求できるか(予備的請求)。
判決要旨
  • 分譲業者がマンション分譲に際し、駐車場の専用使用権を特定の区分所有者に分譲したところ、これを取得した区分所有者は駐車場を専用使用し得ることを、これを取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかである以上、分譲業者が購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情は存在しない。
  • 分譲業者は営利目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解される以上、右対価は専用使用権分譲契約の合意に従って分譲業者に帰属するものであり、この点につき、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、分譲契約における当事者の意思に反する。
  • ガチンコ解説
  • 結論として、分譲業者への専用使用権分譲に伴う対価の帰属を肯定し、1・2いずれの方法による管理組合への対価の帰属も否定している。
    1は分譲契約の効力自体を否定する法律構成、2は委任契約に基づく事務処理上の金員請求権としての引渡請求という法律構成をとったところ、原審では2が認められ管理組合への対価の帰属が認められていた。
    2の法律構成を否定するに当たり判断の決め手となったのは、やはり契約当事者の合理的意思解釈であろう。
    分譲業者は営利目的で専用使用権分譲を行い、購入者はそれを承知で契約を締結している以上、これを委任の事務処理上の契約と考えるのは分譲契約当事者の意思とは明らかにかけ離れたものとなるからである。
  • ファンキー解説
  • 駐車場を売った分譲業者は、明らかに自らの金儲けとしてやっており、区分所有者全員のためにその委任を受けてやっていたとかチャンチャラおかしい。
    駐車場の売り買いの場面では、売る側も買う側もそれぞれ自分が売主・買主だと考えて取引したのに、その代金が売主の懐には入ることなく、管理組合に取り上げられちゃうというのでは、もともとの双方の思惑とも明らかにミスマッチ。
参考
なお、本判決理由中に、マンション分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得す取引形態は好ましいものとはいえない、という考え方が示されている部分は大変興味深い。
同じ問題意識は本判決の遠藤補足意見にも表れているが、ここでは、①分譲業者が購入者に分譲したはずの敷地について二重の利益を得ている疑いがもたれる点、②分譲後に、専用使用権の譲渡・存続期間・有償化・使用料の増額などをめぐり専用使用権者と管理組合との間に紛争が生じ得る点、等が指摘されている。

  • CASE2
  • 最判平成10年10月30日

事実の概要
Aマンションの区分所有者Xらは、マンション分譲業者から、建物専有部分の区分所有権及び敷地の共有持分とともに、マンション敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権の分譲を受け、管理組合Yに駐車場使用料を支払うことにより専用使用してきた。
その後Yは総会の決議により規約を改正した上、駐車場使用料を増額し、Xらに増額後の使用料の支払を求めたが、Xらがこれを拒否したため駐車場使用契約を解除した。
そこで、Xが駐車場専用使用権を有することの確認を求めたのが本件訴訟である。
争点
  • 規約の設定、変更または廃止が一部の区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)とはどのような場面か。
  • 専用使用権の使用料の増額が「特別の影響を及ぼす」といえるか。また、どのような場合に及ぼすといえるか。
  • 使用料の増額が規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づく集会決議をもってなされた場合の取扱い。
判決要旨
  • 「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
  • 使用料の増額は、一般的に専用使用権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は増額を受忍すべきであり、規約の設定等が「特別の影響」を及ぼすものとはいえない。
  • 直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づいた集会決議や細則の制定をもって増額がなされた場合には、法31条1項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るべきである。
  • ガチンコ解説
  • 本判決は、規約設定・変更等により「特別の影響」を及ぼすかどうかの判断基準を示す重要判例である。
    このうち「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれにより一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量し、当該区分所有関係の実態に照らし、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」という部分は、現在まで重要な先例となっている。
    本件原審はこの判断につき、専用使用権の剥奪と使用料の増額とで区別し、単なる増額に過ぎないことを根拠に「特別の影響」を否定したのに対し、本判決はさらに踏み込んで、増額の必要性・合理性、増額された使用料が社会通念上相当といえるかをもとに受忍限度を検討しており、極めて意義深いといえる。
    また、本件における使用料の値上げは直接に規約の変更によりなされているのではなく、規約の定めに基づく集会決議による管理費細則の制定により行われている点に注意を要するが、本判決は区分所有法31条1項の類推適用という法律構成により、本条の解釈の土俵に上げている点も特徴的といえる。
  • ファンキー解説
  • 規約変えられちゃって「自分だけが手痛いダメージを受けた」というには、本当に使用料の値上げをすべきだったかどうかや値上げ額なども良く考えたうえで「我慢の限界を超えるか」を検討しないと始まらない。
    確かに、値上げ自体が手痛いのは分かるけど、周辺のみんなもそれなりの金額払って駐車場を使っているのだから、そのことも無視はできない。
    要は、いくら上がったの?という値上げの額や幅かと…。
    本件くらいの値上げ額だったら普通といえるかどうか、あるいは我慢の限界を超えちゃうか、とかまるで判断してないから、前の裁判はやり直し!
参考
判決要旨3の類推適用に関する同様の判断は、以後の最高裁にも踏襲されており、次に紹介する【CASE3】がまさにそのケースである。

  • CASE3
  • 最判平成10年11月20日

事実の概要
Aマンションでは、元々自己の所有地上にマンションを建築し分譲を行った区分所有者の一人が、同マンション内で店舗営業するために敷地(来客および自家用駐車場)・屋上・外壁・塔屋等の共用部分に無償の専用使用権を認める規約が規定されていた(「旧規約」)。
その後、Aマンション管理組合では、居住部分を中心とする区分所有者により新しい規約を設定し(「新規約」)、その内容として総会決議により同専用使用権の一部を消滅させ、一部を有償に変更できる旨を定め、後日の総会で「消滅決議」「有償化決議」の二つの決議を成立させた。
そこで、専用使用権につき不利益を被った区分所有者により同総会決議の効力が争われた事案である。
争点
  • 区分所有者の一部の専用使用権を消滅させる集会決議の効力
  • 区分所有者の一部の専用使用権を有償化させる集会決議の効力
判決要旨
  • 一部の専用使用権を区分所有者の承諾のないまま消滅させる集会決議がなされた場合において、右区分所有者が分譲当初から本件マンションの一階店舗部分においてする営業のために専用使用権を取得したものであって、消滅した残り部分では営業活動の継続に支障の可能性がある一方で、他の区分所有者らは駐車場等の専用使用権がないことを前提としてマンションを購入したという事実の下では、このような消滅決議は区分所有法31条1項後段の類推適用により効力を有しない。
  • 一部の専用使用権を区分所有者の承諾のないまま有償化させる集会決議は、右区分所有者が管理費等により相応の経済的な負担をしてきた権利を更に有償化させることは不利益を与えるということのみから、集会決議により設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否か等について検討することなく、同集会決議を無効であるとした原審の判断には審理不尽の違法がある。
  • ガチンコ解説
  • 本判決は1・2の部分がともに事例判決(その裁判特有の判断)となっているため、他の事例で先例となり得る点をすくい取る必要がある。
    まず、1の「消滅決議」については、区分所有者に生ずる不利益の程度を勘案して、「特別の影響」を及ぼすから無効であると判断した。
    次に、2の「有償化決議」については、無償だった専用使用権を有償化する場合に、有償化の不利益を被る者の承諾のないまま行うには、設定された金額が社会通念上相当か否かの判断により決される、としている。
    1の「消滅決議」では31条1項後段「特別の影響」の解釈が比較的厳格に判断されたのに対し、2の「有償化決議」については基本認められる方向として金額が社会通念上相当かどうかに関わる問題である、という理解で問題ないであろう。
  • ファンキー解説
    • 何の断りもなく従来からの特権を消滅させてしまうのは酷すぎる。
      まして、この使用権はもともと営業用に確保して分譲したのに、駐車場ないのを知って後から入ってきて規約を変えた上で、こっちの使用権を消されてしまっては、今後もう来客用にも使えず不利益が大き過ぎる…よって、こんな決議は無効。
    • 従来タダで使えた特権をいきなり有料にされちゃったという点は困るかもしれないが、だからといってその金額も考えることなく、決議を全部無効にしちゃうのもまた問題でしょ。
      よって、この部分は裁判のやり直し。
参考
  • 原審は二つの決議をともに無効としたのに対し、本判決は前者を無効、後者については破棄差戻しとした。
  • また本件は区分所有法31条1項後段「特別の影響」を与える場合の承諾の有無という観点から決議の効力が争われているが、同条後段は規約の効力を射程としているため、先行する規約変更に基づく決議の効力が争われた本件では類推適用となっている点には注意が必要である。

  • CASE4
  • 最判平成12年3月21日

事実の概要
Aマンションでは、ある日、Yが所有する607号室の天井裏を通る排水管の枝管から漏水事故が発生した。
この排水管の枝管は、直上階のXが所有する707号室の排水を本管に流す管であり、707号室のコンクリート床下と607号室の天井裏の間の空間に設置されている。
この漏水事故について、YがXに対して訴外にて損害賠償金の支払いを求めたが、これに対しXはYに対する同損害賠償責任が存在しない旨の確認を求めるとともに、管理組合Bに対して、当該排水管の枝管が共用部分である旨の確認を求めつつ、先行してBに支払った修理代金の返還も合わせて求め提訴したのが本件である。
争点
専有部分のコンクリート床と階下の天井裏との間に設置された排水管の枝管は、専有部分、共用部分のいずれに該当するか。
判決要旨
本件では、専有部分である707号室の台所・便所等から出る汚水については同室の床下にあるいわゆるスラブを貫通してその階下にある607号室の天井裏に配された枝管を通じて、共用部分である本管(縦管)に流される構造になっているところ、本件排水管はコンクリートスラブの下にあるため、707号室及び708号室から本件排水管の点検・修理をすることは不可能であり、607号室からその天井裏に入ってこれを実施するしか方法はない。
このような事実関係の下では、本件排水管枝管は、その構造及び設置場所に照らし区分所有法2条4項にいう「専有部分に属しない建物の付属物」にあたり、かつ、区分所有者全員の共用部分にあたると解するのが相当である。
  • ガチンコ解説
  • ある設備が専有部分、共用部分のいずれに属するかの判断は、同設備の位置、建物の構造等に照らすことにより、その管理が区分所有者単独で行うことができるかどうかも踏まえて行うべき、という考え方である。
    漏水事故の損害賠償責任を誰が負うかは、同事故の原因となる設備が誰の所有に帰属するのかで定まるところ、本判決は707号室専用の枝管であったとしても、位置・構造上707号室の区分所有者が単独で管理することができない点に実質的に踏み込んで共用部分である、と判断した点で意義を有する。
  • ファンキー解説
  • 下水漏れの責任は、その下水管を専用で使っている者が常に負うべきもの、というわけじゃない。
    たとえば、今回の707号室の下水管のように607号室の天井裏との間でコンクリによりガチガチに固められていて、点検したり直したりするのに707号室やお隣の708号室からも触れられず、階下の607号室の天井裏からしかいじれないような場合にまで専有部分だというのには無理がある。
    よって、これは共用部分。
参考
この判決の帰結として、Xの当初からの主張のように707号室のXが単独で損害賠償責任を負ういわれはなく、本件枝管は共用部分として区分所有者全員がその共用部分の持分の割合に応じて、損害賠償責任を負うことになる。

  • CASE5
  • 最判平成16年4月23日

事実の概要
Aマンションの区分所有者Bは、平成4年1月から平成10年4月までの管理費・特別修繕費(合計173万9920円)を滞納したまま、自己の専有部分をYに譲渡した。
そこで管理組合Xが、平成12年12月、Yに対し特定承継人(法8条)として支払いを求めたのが本件である。
争点
債権一般の消滅時効は10年であるが(H29改正前民法167条1項)、管理費及び特別修繕費にかかる債権もこれと同様に10年の消滅時効にかかるのか。
判決要旨
本件管理費等の債権は、管理規約の規定に基づいて区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに支払われるものである。
このような債権の性質からすれば、本件管理費等は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、(H29改正前)民法169条所定の債権(定期給付債権)に該当する。
  • ガチンコ解説
  • (H29改正前)民法169条は、「年またはこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権」は5年の消滅時効にかかると規定するところ、本判決は、管理費・修繕積立金などは通常、規約や集会の決議により区分所有者が毎月所定の期日に支払義務を負うもの、という性質に着目し、定期給付債権として5年の短期消滅時効にかかると判断した。
  • ファンキー解説
  • 管理費とか修繕積立金とかは毎月毎月発生するものだから、普通の借金とはわけが違う。
    よって、法律上踏み倒せるようになるまでの期間も10年とかの長期間ではなくて、毎月毎月新しい借金を積み重ねるイメージで、それぞれ5年間切り抜ければ法的に踏み倒せるようになる、と考えておけば良いだろう。
参考
この判決により、各管理費等は管理組合が、それぞれの支払日から5年を経過する前に、時効中断の措置(H29改正前の措置)を採らないと、短期消滅時効にかかってしまうことになっていたが、現在ではH29年の民法大改正で新民法168条が創設されたことにより、この問題は立法的に解決された。

  • CASE6
  • 最判平成21年4月23日

事実の概要
本件A団地は1つの団地内にある数棟の建物の全部が専有部分を有する建物であり、団地内全建物の敷地が団地内の各建物の区分所有者の共有に属する、といういわゆる団地型マンションであるが、先に行われた団地管理組合の集会において団地内の全建物を取り壊し新たな建物を再建する一括建替え決議が可決され、それに基づく売渡請求権の行使という手続きまで進行していた。
そこで、この建替え手続きに反対していた区分所有者により、一括建替え決議(区分所有法70条1項)が財産権を定めた憲法29条に違反する、として争われたのが本件である。
争点
団地内区分所有建物の一括建替え決議(法70条1項)が、建物単位での区分所有者数および議決権数の要件(棟ごとの各3分の2の賛成で足りる)を、単棟型建物の建替え決議(各5分の4以上の多数)と比較し、より少数での建替え決議を可能としているのは、建替えに反対しまたは参加しない者の財産権を侵害するか。
判決要旨
区分所有法70条1項は、団地内の各建物の区分所有者及び議決権の各3分の2以上の賛成があり、かつ団地内区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成で団地内全建物の一括建替え決議ができるとする。
この一括建替えは、団地全体として計画的に良好かつ安全な住環境を確保し、その敷地全体の効率的で一体的な利用を図ろうとするものであるから、区分所有権の性質からすると、団地全体では単棟型区分所有建物の建替え決議を規定する法62条1項の議決要件と同一の要件を定め、各建物の単位では、区分所有者及び議決権の過半数を相当に超える議決要件を定めているので、70条1項の定めが合理性を失うものではない。
また、団地内全建物の一括建替えの場合も単棟型同様に、建替えに参加しない区分所有者は、売渡請求権の行使を受けることにより、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すこととされ、経済的損失については相当の手当てがなされているというべきである。
  • ガチンコ解説
  • 区分所有法70条1項の違憲性の主張を退けるに当たり、基本的人権の憲法適合性の判断基準である必要性・合理性の基準できちんと検討を加えており、好感の持てる判断内容に仕上がっている。
    上の抜粋部分にはないが、判決では必要性の検討部分で、まず、ある区分所有権の行使が他の区分所有権の行使との調整が不可欠である点、集会決議等による他の区分所有者の意思を反映した行使の制限が区分所有権自体に内在する制約である点、を明らかにした上で、一部の区分所有者の反対により建替えができない事態が、良好かつ安全な住環境の確保や敷地の有効活用の支障となる、という具体的な理由を述べている。
    また、合理性の検討では、一括建替え決議の手続き全体で見れば、団地全体の賛成要件、棟単位での賛成要件を定めている点から70条1項が特段緩い要件ではない点をきちんと指摘しており、説得力に富んでいる。
    さらに、売渡請求による経済的救済の手当にも触れることで、権利侵害性を否定する結論を導いている。
  • ファンキー解説
  • そりゃ1棟単位ってとこだけ切り取って見れば、賛同が必要なのは、かたや3分の2(団地型)、かたや5分の4(単棟型)という点で、団地型は建替えが緩いなどと突っつくこともできるかもしれない。
    だが、団地は団地という特殊な単位で捉えないと何も始まらない。なぜなら、団地はそのエリア内に建物持ってるみんなで住まいの環境や敷地の利用法を考えなければならないのだから…そこは無視できない。
    そうすると、70条1項はまず団地全体で単棟モノの62条1項と同じ賛成多数が必要とされていて、さらに建物ごとでも3分の2の賛成が必要とまでされているのだから、とても要件が緩いだの不合理だのいえない。
    また、そんなに建替えるのが嫌だというのなら、さっさと売渡請求を受けて金もらって退散する道まで残してあるのだから、ことさらに財産奪われたとか騒ぐほどのレベルでもない。
参考
本判決のラスト部分で引用されている2つの判決は、ともに(旧)証券取引法164条1項の短期売買取引による利益提供規定の憲法29条適合性が争われた事案であり、区分所有法の建替え決議の規定の合憲性とは関係がない。

  • CASE7
  • 最判平成22年1月6日

事実の概要
ある団地管理組合Xでは、区分所有者を居住者と非居住者に分け、非居住者である区分所有者のみに対して特別の協力金という名目の金銭を負担させる旨の管理規約変更がなされた。
本件、同管理組合Xが、非居住者組合員であったA(係争中に死亡)の相続人Yに対し、上記管理規約変更に基づき負担すべきものとされた月額2,500円の「住民活動協力金」及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。
争点
上記規約変更が、区分所有法66条、31条1項後段の「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、Aの承諾がない以上無効とならないか。
判決要旨
本件規約の変更は、判示の①~④の事情下においては、「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」には当たらない。
①当該マンションは、区分所有建物4棟・総戸数868戸と規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には、管理組合等の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠である。
②当該マンションでは、非居住の組合員が所有する専有部分は約170~180戸で、それらの者は管理組合の役員になる義務を免れる等管理組合の活動につき貢献をしない一方で、その余の組合員の貢献によって維持される良好な住環境等の利益を享受している。
③本件規約変更は、上記②の不公平を是正する意図のものであり、これにより自ら専有部分に居住しない組合員が負う金銭的負担は、その余の組合員が負う金銭的負担の約15%増となるに過ぎない。
④自ら専有部分に居住しない組合員のうち住民活動協力金の支払いを拒んでいるのは、Aらごく一部の者に過ぎない。
  • ガチンコ解説
  • 規約変更の必要性・合理性と非居住組合員が受ける不利益の程度を比較衡量した事例判決である。
    これに反対者の数も考慮に入れ、「特別の影響」の存否の一般的な判断基準である受忍すべき限度を超えていないという結論を導いている。
    ①マンションの規模、②住環境への貢献度の差異、③負担増の程度、④反対者の数、と並列的に判断要素が列挙されているが、個人的には②の要素が大きいと考える。
    すなわち良好な住環境の維持はそのマンションに居住する者の手によって現実に担われ保たれているという認識を前提に、その不公平感を是正するための受忍限度としてこの程度の金銭負担は妥当という考慮が働いた、と考えられる。
  • ファンキー解説
  • 「そいつだけにダメージ与える」ような規約変更をするなら、そのダメージを受ける者がOKしないとダメで、その承諾のない変更は認められないはずである。
    今回のケースでもそもそもそんな承諾いるのか、という点を踏み込んで考えてみた結果、①すごい団地の規模、②住んでいる組合員はみんなで日頃から住環境向上に貢献しているのにタダ働きとなっている反面、住んでいない組合員はその恩恵を受けまくり、③その不公平を考えればたかが15%増の負担だし、④反対者もごく少数、という4つの要素で2,500円の負担くらい我慢しなさい、という判断になった。
参考
  • 判旨からすれば、例えば30戸程度の小規模マンション(要素①)、負担増は居住組合員の倍以上(要素③)、大多数の非居住組合員が反対(要素④)、等の要素があれば十分異なる結論を導くことも可能であるから、本判決はこの事例特有の判断にとどまるといえる。
  • なお、②の「管理組合の役員になる義務を免れる等」のくだりは、この時期の標準管理規約が管理組合の役員就任の要件を「居住組合員」と定めていたことから、本件団地管理組合Xも同様であったと考えられる。

  • CASE8
  • 最判平成24年1月17日

事実の概要
Aマンションの区分所有者Bは、管理組合の役員Cが修繕積立金を恣意的に運用したなどの記載を中心とする役員らを誹謗中傷する内容の文書を配布し、マンション付近の電柱に貼付するなどの行為を繰り返し、Aマンションの防音工事や防水工事を受注した各業者に対し、趣旨不明の文書を送付したり、工事の辞退を求める電話をかけるなどして、その業務を妨害する行為を続けていた。
そこで、このような行為が「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法6条1項)に当たるとして、上記行為の差止めを求めた事案である。
争点
区分所有者の一人が、業務執行に当たっている管理組合の役員らを誹謗中傷する内容の文書を配布する等の行為が、区分所有法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるか。
判決要旨
マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らを誹謗中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどの行為は、それが単なる特定の個人に対する誹謗中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理または使用が妨害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地がある。
  • ガチンコ解説
  • 管理組合の役員らを誹謗中傷する文書を配布する等の行為が「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるか否かは、個人的な誹謗中傷の域を超え、これにより現実に管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じたか否かを実質的に判断すべきである。
  • ファンキー解説
  • 「アイツは修繕積立金を遣い込んでいる」などの内容のビラ配りがされても、それが単なる悪口とかの個人攻撃のレベルにとどまらず、それによって現実に業者の仕事を邪魔したりして管理組合に迷惑を掛けたかどうかまで、もっと踏み込んで判断しないと、その行為を止めさせるまではできない。
参考
本件原審は、各行為が騒音・振動・悪臭の発散等のように建物の使用または管理に関わるものでなければ、被害者各々が差止請求や損害賠償請求の手段を採れば良い、として「共同の利益に反する行為」を限定的に解釈したのに対し、本判決は各行為による現実的な業務の遂行や運営への妨害・支障の有無により管理または使用が阻害される場合を広く含む、と考えている点が注目されるべきである。

  • CASE9
  • 最判平成29年12月18日

事実の概要
Yマンションでは、次のような規約が定められていた。
(a) 管理組合には、役員として理事長・副理事長等を含む理事ならびに監事を置く。
(b) 理事及び監事は、組合員のうちから総会で選任し、理事長及び副理事長等は、理事の互選により選任する。
(c) 役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない。
(d) 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。

規約(b)に基づき、臨時総会で管理組合の理事の1人として選任された区分所有者Xは、同時に選任された理事の互選により、理事長に選任された。
しかしその後、理事長Xが他の理事から総会の議案とすることを反対されていた案件を諮るために、理事会決議を経ずに理事長として臨時総会の招集通知を発したことにより、同理事会においてXの役職を「理事長」から「理事」に変更する旨の決議がなされた(実質的には理事長の解任決議)。
そこで、Xにより本件理事会決議の無効等が争われた事案である。
争点
  • 規約には、理事長の職を理事の互選により「選任」する旨の定めはあるが、その「解任」についての定めはない。
    このような場合に、理事長を理事会で解任することは可能か。
  • 規約では、役員の解任は総会の決議事項とされているが、この定めは理事会での理事長解任の妨げとはならないか。
判決要旨
本件規約は、理事長を理事が就く役職の1つと位置づけた上、総会で選任された理事に対し、原則として、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。
そうすると、このような定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨である、と解するのが本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。
また、本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは、上記結論の妨げにはならない。
  • ガチンコ解説
  • 規約上、理事長の職を総会で選任された理事の互選で選任することを認めているとして、その解任はどう考えるのか。解任の規定がない以上認められないのか、あるいは互選による選任が認められるのならその逆もまた認められるはず、と考えるのかの問題であり、本判決は後者の判断を下した上で根拠として規約を定めた区分所有者の合理的意思に求めている。
    また、役員(理事)の解任と役職(理事長)の解任を区別し、前者が総会決議事項であるからといって、理事会決議での理事長職の解任が許されるかどうかの判断を左右しないとしている。
  • ファンキー解説
  • (互選での選任のことは書いていても)解任できることまでは書いてないんだから、理事会での解任は無効と主張する旧理事長。
    これに対し「そんな形式論を問題としているんじゃない!」「要は、互選での理事長選任を認めた規約はどう考えているの?」という点を、規約を決めた区分所有者みんなの気持ちになって考えてみた結果、「理事みんなで理事長を決められるとしているのなら、理事長のクビ切るのもまた自由でしょ!」と規約は考えているはずだ、とした。
参考
本判決の結論だけ読めば一見当然のように思われるかもしれないが、本件原審(福岡高裁判決)では、本件理事会決議は無効、と全く逆の結論を採用したため、本最高裁判決により破棄差戻しとなった点は興味深い。

  • CASE10
  • 最判平成31年3月5日

事実の概要
区分所有建物5棟から成る総戸数544戸のAマンションでは、従来、団地建物所有者又は占有者(以下、団地建物所有者等)は、個別に電力会社との間で、専有部分において使用する電力の供給契約(以下、個別契約)を締結し、団地共用部分である電気設備を通じて電力の供給を受けている。 その後、Aマンションの団地管理組合法人の通常総会において、専有部分の電気料金を削減するため、A団地管理組合法人が一括して電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結し、団地建物所有者等がA団地管理組合法人との間で専有部分で使用する電力の供給契約を締結して電力の供給を受ける方式(以下、高圧受電方式)への変更をする決議がなされた。 この高圧受電方式への変更には、団地建物所有者等の全員が個別契約の解約をすることが必要とされていたところ、その後のA団地管理組合法人の臨時総会において高圧受電方式への変更を可能とするため、電力の供給に用いられる電気設備に関する団地共用部分につき、区分所有法65条に基づく規約を変更し、その細則として、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける電気供給規則を設定する決議がなされた。 ところが、一部の団地建物所有者等はこれに応じず、個別契約の解約申入れをしなかった。 そこで、他の団地建物所有者等が、電気料金の削減が実現できないという損害を被ったとして、上記個別契約の解約に応じない団地建物所有者に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
争点
  • 団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けることは、団地共用部分の「変更またはその管理に関する事項」を決するものといえるか。
  • 団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けることを内容とする規約は、区分所有法66条が準用する同法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものといえるか。
  • 個別契約の解約申入れをしなかった一部の団地建物所有者等の行為は、不法行為(民法709条)を構成するか。
判決要旨
  • 本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の「変更またはその管理に関する事項」を決するものではない。
    したがって、区分所有法66条が準用する17条1項または18条1項の団地共用部分の管理に関する決議として効力を有するものとはいえない。
    このことは、本件高圧受電方式への変更には個別契約の解約が必要であるとしても異ならない。
  • 本件細則が、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、区分所有法66条が準用する同法30条1項の「区分所有者相互間の事項」を定めたものではなく、規約としての効力を有するものとはいえない。
  • 本件決議に基づき専有部分の個別契約の解約申入れを行わないことは、他の団地建物所有者等に対する不法行為とはならず、損害賠償請求は認められない。
  • ガチンコ解説
  • たとえ、高圧受電方式への変更には個別契約の解約が必要であるというような場合でも、電気の供給契約をどの方式で行うかの判断はそもそも専有部分の使用に関する事項であり、そうである以上、共用部分の変更・管理に関する事項として規約変更等の総会決議により強制することには馴染まない、とした。
    また、同様に区分所有者相互間の事項に該当すれば、規約やそれを具体化する細則により一定の義務付けも可能となるが、ある団地建物所有者等が専有部分で使用する電気の供給契約の方式を解約を行わないというだけで直ちに他の団地建物所有者等の専有部分の使用や共用部分の管理を妨げるものではない以上、このような義務付けを定める規約は効力を有しない、とされた。
    そして、このような理由から、高圧受電方式への変更がかなわず、結果的に電気料金の削減効果が得られなかった団地建物所有者に対して何ら不法行為責任を問われることはない、との判断を下した。
  • ファンキー解説
  • 共用部分の電気というのならいざ知らず、各戸の専有部分で使用する電気の供給形態など、各団地建物所有者が自由に決めていいはずである。
    これを共用部分の変更だの管理に関する問題だのいうこと自体が言い掛かりであって、まして決議とかで強制されるいわれもない。
    同じように、自分の家にどんな形態で電気を引くかについて決めても何ら他者の使用を妨げることなどないのだから、相互間の取り決め事項と言われてもそもそもピンと来ない。
    むしろそんなことで、規約により解約まで強制されるなどはもってのほかである。
    誰かが望む行動を取らないことで結果的に他の人に経済的効果が得られないとしても、そのことで損害被ったから金よこせとか言われる筋合いもない。
参考
本件も、原審と原々審ではいずれも不法行為責任の成立を認めており、原判決破棄、第1審判決の取り消しにより本判決の判断がなされている点に注意が必要である。